sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

ビューティー・クイーン・オブ・リナーン @ パルコ劇場

作:マーティン・マクドナー 
演出:長塚圭史
出演:大竹しのぶ 白石加代子 田中哲司 長塚圭史

ko-moto2007-12-16

最近あまりふるわないケイシーなので、こういっちゃなんですが「面白くなかったらどうしよう」というドキドキすら感じないくらいの期待度で、女優魂のぶつかりあいさえ観れたらそれでいいや、と向かったパルコ劇場。
おもしろかったです。
ピローマン」「ウィー・トーマス」に続くマーティン・マクドナー作品。前2作は観ていないのですが、評判が高かった理由をこの作品で納得させられる仕上がりでした。いわゆるホラー的な「怖い」ではないんですが、これが現代に書かれた戯曲でないのが不思議になるほどの今日的なテーマと、そのために効いてくる怖さ。これを見終わった後にパーリーに行く予定にしていたんですが、「今日は人に会うのをやめておいたほうがいいかもしれない」と思いかけました。後味が悪いわけではないんだけれども、いかんともしがたいやりきれなさと空しさで身体の中心を心地悪く脱力させられてしまったような感覚。ロッキング・チェアの揺れがぴたっととまった瞬間に気持ちが決定的にずしんと重くなったように感じました。
ひとつだけ、「ああもうちょっとだけ出演者と観客を信じてくれればいいのにな」とは思いました。ラスト近くの「そっくりだよ」なんてセリフ、観ていればあからさまなほど分かることだったから、あえてセリフで言わない方がいいのにな、と。前日に言わなすぎのお芝居をみたせいかもしれませんが。

お二人の女優さんの演技を堪能させていただきました。これが目当てよ!というこちらの期待を上回りに上回るものをみせていただきました。
あの、ドレスアップしたハイヒール姿で踏みつけるシーン、あそこの大竹さんの表情といったら、赤ちゃんがお母さんのおっぱいを飲みながら顔を見上げているような、無垢で何も知らないような表情で。その時点では明確にされていなかった、根の深い狂気を一瞬で理解させるような表情。そりゃあもう観ているこっちは、こりゃあリアル北島マヤだわ、しょうがないじゃない!て勢いで、巻き髪気分で白目むきました。恐ろしい子……!
また大竹さんのドレスアップ姿が(それまでの野暮ったい格好からのギャップがすごかったってのもありますが)ステキでかわいくて。オーガンジーっぽい黒の薄手の超ミニワンピ。さらにはスリップ姿まで。これがキレイなの。背中ってやっぱり重点的にケアしておくといいかも、って思わされました。
白石さんは最初から最後まで、まぁこにくたらしい老婆をこにくたらしいとしか思えない、でもきっとこの人若いころは普通だった、きっとよくいるタイプ……!って思わせるコミカルさで、ぐいぐいと作品に引き込んでくれました。
ケイシーは、そうだよね、20歳の役だもんね、代役なんだよね、って思い出さずにいられないほどの、無茶なやんちゃボウズでした。ラストの無邪気な残酷さを表現するためにああだったんだろうと理解。
田中哲司氏。顔が好きー!てのもあって、真摯で爽やかで不器用ないい人、そりゃあ行く行くついて行く!てな役でした。ちょうど、2004年の舞台でミッチ役を田中さんがされていたのも思い出して、このお芝居を観ている間中、「欲望という名の電車」を思い出していました。狂気を抱えた寂しい女性と、それを救ってくれそうな男性の存在。翻訳劇。似てませんか。

しかし、年増の独身女をヤバいものとしてここまでストレートに描かれると、年増の独身女としては胸をうずうずさせずにいられません。きっと今よりもこの時代のほうが大変だったはずですしねぇ……。もう1年以上前にはなるんですが、「30代で処女なんです」に関わる相談を立て続けに受けたことがあって、それについてもやたらと思い出しました。そういうの、あんまりヤバいものとして扱わないような世間の方が素敵だし自由だ、って思うんですが、誰も彼もが恋愛主義、ってのは何も日本や近代に限らないことだろうとも思いますし。みんな穏やかにすごせるといいよなぁ。