sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

空中庭園

赤い電車に乗っかってファソラシドレミファソ〜、と黄金町(シネマ・ジャック&ベティ)で観ました。

原作の中からやはりメインとして扱われたのは表題作であった「空中庭園」でした。

「秘密を持たない」が家族の決まり。引きこもりの子供時代、「あんな子、産むんじゃなかった」という母の発言を聞いたママは計画的に完璧な家族を作ろうとしてきた。
ママはある出来事から「ばれない嘘は嘘じゃないのよ」とつぶやき、
娘は「人間は泣いて血まみれで産まれてくる」という言葉を聞く。
息子は「思いこんでると本当のことが見えない」といい、
家庭教師は完璧な家族のことを「学芸会」と評する。
浮気を白状しようとする夫に「家族の決まりを守ってよ」と吐露した直後に、「やりなおして繰り返して」とつぶやく母親からの「お誕生日おめでとう」。これをきっかけにママは「血まみれで泣いちゃう」。産まれかわれたのかどうか、自分は母親にアイスをあげたのかあげてないのか、「本当のことが見えない」けど、それぞれがそれぞれの役割を演じる学芸会かもしれない家族は続く。

ストーリーはママ中心に構成されていたので、夫と過程教師と息子周りや、娘の葛藤やおばあちゃんの主観についてはあまり触れられず。それなのに、ママとおばあちゃんのくだりとか、どうしようもない停滞感とかはばっちり分かるもんだから。キレイにまとまってたなー。ラストに希望がにおうのも原作と似ていて、表現方法を換えているのに伝わってくる感覚が面白かったです。

豊田監督映画のヒリヒリした感覚は時々挿入される景色たちに作られているような気がしているのですが、今回はまず冒頭に「空一面から葉っぱが見え出して、それを支える柵(?)→柵からぶら下がる赤い花の咲いている籠がゆらゆら揺れている様子」と映し出された映像が。全体的に画面がちょっとゆらゆらとしていたようでした。そのゆらゆらが映し出しているのが平和的に見えているけどどことなく作り物のようなニュータウンであるところがママの心の内を表現していたように思います。
残念だったのは、小説内にあったあれです、ホテル野猿の窓を開けて外を見ると、ニュータウンをファスナーのように通ってる電車がちょうど止まってしまっていて、その窓から人が次々に降りてくる、っていうシーン。映画ではバスになっちゃってましたね。ファスナーのような電車をとって欲しかったな。あー、あと最後の洪水はなくしてベランダ(空中庭園か)シーンだけで良かったような。

役者さんはばっちしイメージとあってました。キョンキョンが作り笑顔からどんどんくたびれていく様子、それであの最後の爆発で、よかったです。ケーキのシーンなんてすごいくたびれ演出されてたよなぁ。鈴木杏ちゃんが長女役なのは知っていてイメージにぴったりすぎると思ってたらホントにイメージ通りで。長男役の子もいいなぁ、ちょっとサケの伊藤くんみたいだ、と思っていたら広田レオナさんの息子さんなのですね。ソニンちゃんと永作さんの、板尾をめぐるちょっとしたドタバタについては映画ではあまり触れられず。勝地涼さんがちゃんと森崎くんだったのが嬉しすぎた。1回しか言ってなかったけどしっかり「逃げてぇ」もあり。

赤い血とその中での再生はイメージもそのまんま「胎内」だし、虚無や諦念がその荒廃した雰囲気として象徴されていると思われる「ニュータウン」はこないだの「目的地」でも舞台だったし、書かれた時期はずれてるけどこないだ読んだ舞城の本もテーマは家族だったし。なんでしょう、このシンクロ。

それにしても冒頭の板尾の「ヒッピー」発言、……つーか、こういうこと言わせちゃってたのね、てな発言あり。わたしの大好きなみなさま、お願いだからこれ以上手ぇださないでくださいね。