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「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

その人を知らず / 東京デスロック @ こまばアゴラ劇場

ko-moto2009-01-04

作   三好十郎
演出 多田淳之介

出演 夏目慎也 佐山和泉 
    猪股俊明 山村崇子(青年団) 佐藤誠(青年団) 桜町元(青年団)
    村上聡一(中野成樹+フランケンズ) 坂本絢 征矢かおる(文学座) 
    山田裕子(第七劇場) 笠井里美(ひょっとこ乱舞) 折原アキラ

東京デスロックの東京公演休止前最終東京公演、そして上演中に三好十郎氏の著作が著作権保護期間を終了して公共化、という特別まみれのこの公演。すべりこみで観てきました。千秋楽は明日。

キリスト教の精神(汝は汝の敵を愛せよ、的な)を貫くために、戦時中に出征を拒んだために家族を含めて手ひどい目にあった男が、戦後には「戦争反対を貫いた英雄」として崇められる話。貶められても崇められても決して幸せではなく。本人の信念は変わっていないのに、周囲の変化によって評価が180度変わる。2009年の現在を生きる自分も、自分で吟味して自分で決定したと信じていても、実は全くの「自分」ではなくて、どうしても環境の影響を受けている。そういう事実を改めて突きつけられたような気がしました。ちょうどお友達と子育ての際に「どんなに極端であろうと、やってしまおうと思えば、母親の思想“だけ”を是とする子供を作れる可能性ってあるよね」という話をしていたところだったので、ぐぬぅ……、と考え込んでしまいました。主題とあまり関係ないかな。

それから書き留めておきたいのは、このキリスト教精神を貫いた男が絶対的な善としては描かれていなかったということ。愚直なまでに信念を貫く男は文字通り「愚」である可能性があって、180度評価を変えた周囲が絶対的な悪でもなく。かつ、「判断は観客にゆだねます」という投げ方もしていない。環境の変化と状況が「ただそこにある」というように描かれていたように感じました。

演出はかっこよかったです。あまりの爆音に驚いて「ちょ、住宅街」とか言った。だいじょうぶなのかしら。音楽とマイクとハウリングの効果が抜群で、空襲を表すシーンで初めてマイクが床に到着したところは思わず声が漏れました。デスロック(当時は「東京死錠」表記と混在してたような覚えがあります)を観るのは2005年12月以来。その公演は、場所がカフェであったことも含めて、実験的……といえば聞こえはいいのですが、模索中のものをみせてみました、という印象を受けました。そして「できあがったものがみたいです」とちょっぴり思ったんです。3年経った今日は「おお、完成形!」と思い、東京での最後の公演でこれを観ることができてよかったなーとひしひし思いました。

三好十郎というと、ケイシーのやってた「胎内」を思い出し、戦中と戦後の人間のありようの変わりっぷりには野田地図の「オイル」を思い出してました。