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「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

三月の5日間 / 岡崎藝術座 @ 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場

ko-moto2008-07-27

作 岡田利規チェルフィッチュ
構成台本・演出 神里雄大
出演:冨川純一 西田夏奈子  武谷公雄(バングラッシー)   砂生雅美 佐々木透  宇田川千珠子(青年団) 影山直文 中村早香( ひょっとこ乱舞)  尾原仁士  春日井一平(劇団上田)  タカハシカナコ(劇団井手食堂)

チェルウィーケン3日目。

もういいよ、というくらい大好きでしょっちゅう引き合いに出している「三月の5日間」。私が知る限りでは初めて*1のほかの方による演出バージョンを観に行きました。

Web上では絶賛されているようですが、うーん。やはりオリジナル作品が好きすぎるからだと思いますが、「これはこれで」という割り切りを自分に課しながら観てようやく楽しんだカンジでした。序盤はチェルフィッチュ的動作がちらほら見えてちょっと興ざめだよ、と思いながら眺め、後半、とくにオリジナルでは休憩が入った後のぶっちぎりっぷりに半分あきれて半分笑いました。


あの戯曲があの演出じゃなかったらどうなるのか想像もつかなかったので、ひとつの答えを目にすることができて楽しかったです。

本日楽日だったのでいいかなー?と思いつつも大ネタを書いてしまってますので念のためたたみます。


特に良かったのはラスト。ド真ん中にわかりすぎるよな強烈な、岡田さんが「谷崎潤一郎細雪のように汚く終わりたかった」と語ったラストのグロテスクさを強調したよなシンボルが鎮座(?)している中、その周辺にはいつもと変わらない日常を送る登場人物たちが配置されていて、渋谷の喧騒の中で「旅行に来たみたいな」と言い表されているゆっきーさんの非日常感とちょっとした孤独がわかりやすく迫ってきたように思いました。

オリジナルでの休憩後のシーンは観客ごと劇場の外に移動して、新百合ヶ丘津久井道あたり)の風景をバックに、びっくりするほどの「演劇を見慣れない人が抱く演劇のイメージ」を思い浮かばせるようなセリフ回し。さらにはタモさんの忌み嫌う「突然歌いだすミュージカル風演出」まで飛び出す始末。オリジナルではロマンチックかつ現実的かつ夢想的、という不思議な感覚を抱かせたこのシーンをここまでぶっこわす(本気で何やりたいんだ!と思った)やり方には驚きました。正直あんまり好きではなかったし、観ている自分たちが通行人から観られているということにちょっぴり恥ずかしくなりながら観ていたんですが。驚きはしました。ヤスイ君が怒られちゃいました、のシーンの怒ってる方の言い分はストレートに演出されててわかりやすかったです。あと、この外のシーンで車を使っていて*2、その車の閉じた窓に観客の姿が映し出されているのが面白かった。

みんなが気になるミッフィーちゃん。これが意外にも役者さんが違ってもちゃんとミッフィーちゃんしていました。きっとテキストが強いんだなぁ。今日の演出では「部屋の周りが宇宙」のくだりはオリジナルよりももっともっと悲痛な叫びに聞こえて、小説版に寄り添ったイメージのように感じました。……んだけど私の周囲では笑い声が起きていて不思議。そこが少し残念でした。

おそらく俳優さんたち(特に女性陣)の演技があまり好きでなかったので序盤はむにむにしてしまったのだろうと思います。


本日はアフタートーク付き。
ですが、ぐっだぐだで「何について話してたっけ?」とあまり内容を思い出せない。質問者のお一人が仰ってましたが、「岡田さんが全体を見て、今話しているテーマを深めようとしているところに、神里さんが個人的な事象を語りだしてうやむやになっている」トークショーでした。ので、思い出せることを箇条書きに。

  • この作品と「横浜」「渋谷」「六本木」という場。そして本日の公演場所である「川崎(新百合ヶ丘)」について。横浜出身の岡田さんにとっては「渋谷」は一番近い東京であり(六本木もまあ日比谷線直通でいけるから近い)、川崎は遠い。神里さんは川崎の方なのかな?小田急線に親しんでいる、といった語り口でした。「岡田さんは六本木とか書いちゃってすごいなぁ」とか「SuperDeluxeとか常連なのかと思ってました(岡田さんは否定されてました)」とか。
  • 岡田さんはラストの演出が良かったと仰ってました。上記に書いたことはちょっと自分が感じたことにプラスして岡田さんの思ったことも書いてしまったかも。全裸の男の人がしゃべる(あ、書いちゃった)という演出は「あのシーンだけ登場人物が全員裸のように感じたから。他のシーンは服を着ている」という理由だそう。それに対して岡田さんは「普通人は服着てるからね」「(素っ裸の男性のヤバいところが見えそうになったときに)隠そうとするフリをしてぜんぜん隠せてないところが良かった」。
  • 作品とは関係ないけれど、「横浜から来にくいとはいうけど新百合ヶ丘だってがんばっている」みたいな話をしたとき、岡田さんが今日町田経由で来るときに町田にあったキャンペーンのスローガンみたいな言葉「あなどれない、町田」というのが面白かったという話。別にあなどってないよー、だって。私も同じ経路で来たけど帰りにも見つけられなかった。面白いものが目に付くようになりたいものです。
  • 岡田さんいわく「脚本にあるすべてのシーンを使っていたのが意外だった。シーンを作り変えるのは大変にしても、1個のシーンまるまるカットとかするかなと思ってたから」。
  • 「岡田さんの作品はオシャレだ」発言に「(あちゃー、な風情で)よく言われるんですよね」「おとといもモトヤユキコに言われた」ですって。言われてた言われてた。私はただオサレと感じるものがあまり好みではないので、岡田さんのオシャレは描きたいものとやりたい表現が結果的にオシャレに結びついちゃっただけなんじゃないかと思うんですけど、どうなんでしょう。みなさんの言う「オシャレ」「スタイリッシュ」って。

こないだの乞局のアフタートークのときもそうだったんですけど、今、岡田さんとトークするってなると誰しもちょっと恐縮しちゃうものなんですかね。おとといもモトヤさんに「どうせ頭いいんでしょう?」って言われていたけど、みなさん口にしないでもそう思いながら話しているような気がします。岡田さんが鋭いことをずばっと言うとそこで「まぁ……そうなんですけど……」で話が終わってしまうというか。時の人ではあると思うので、しょうがないとは知りつつも、ぐわっとつっこんでトークする演出家がいてほしい、と思います。

*1:アフタートークで岡田さんが仰ってましたが、地方では上演やリーディング公演が行われたことがあるそうです

*2:アフタートークで岡田さんが「細かい演出を」と仰ってましたが、この車の中でいちゃつくカップルがカーセックスを始めて車が揺れまくったりする