つい最近はったばかりだけど再度。
以下、文学界に掲載されていたこの映像最後のセリフ。たたみます。
……その電話は何事もなかったかのようにプツッと切れた。
でもその時電話の向こうで、十万人の人間が溶けた。
電話の向こうで人が溶けてあたしの耳に、声が残った。
石段に腰をかけていた人が溶けて、その石の上にその人の影だけが残ったように、あたしの耳に声が残った。
電話の向こうで十万人の人間が溶けて、十万人の声があたしの耳に残った。
残った声は幻?
……このオイルが幻だというのなら、それでもいいの。
幻のオイルを補給して、どうしても幻の零戦を飛ばしてやる。
ヤマト、もう一度教えて。復讐は愚かなこと?
たった一日で何十万人もの人間が殺された。
その恨みは、簡単に消えるものなの?一ヶ月しかたっていないのよ、あれから。
どうして、ガムをかめるの?
コーラを飲めるの?
ハンバーガーを食べられるの?
この恨みにも時効があるの?
人は何時か忘れてしまうの?
原爆を落とされた日のことを。
その翌日、歩いたその町を。
焼けて流れて爛れて溶けたあの町とそこに張り付いていた人影を。
そして、あたしの耳に残った、ヤマト、あなたの声を……
もしもし、もしもし………
天国があるというのなら、何故あの世に作るの? この世にないの。
どうして、天国が今ではなくて、アフターなの?
その答えを教えてくれたら信じてもいいよ。あなたのこと……
ごめんなさい。嘘ついた。
ほんとは助けが欲しい……あなたの。
聞こえていたら……返事して……神さま。