sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

ドコカ遠クノ、ソレヨリ向コウ 或イハ、泡二ナル、風景 / マームとジプシー @ プルヌスホール

作・演出 藤田貴大
出演
伊野香織 石井亮介 荻原綾 尾野島慎太朗 斎藤章子
高山玲子 成田亜佑美 波佐谷聡 召田実子 吉田聡


ああ、うちのねこかわいかったな。
いっしょにいた16年間のことが、短い猫シークエンスの中であたまの中をかけめぐった。


「猫がしゃべる」によって、またしても大島弓子を想起させられるのだけど、マームが大島弓子を想起させる理由は「猫がしゃべる」だけじゃないよな、ともおもう。今回は出てこなかったけれど、ほぼ毎回「生理」を取り扱うところ、藤田さんの女性に抱く憧れ/ファンタジーのような気がしてる。そして藤田さんが抱いているのは、性的な女性性に対してではなく、自分には分かりえない神秘的なものとしての女性性に対する憧れなんだろな、っておもう。だから性的な匂いというよりも、透明感のある昔の少女漫画を思い出させるんだろうな。「リアル」から遠く離れて。


飴屋さん作品つくってるとき、この作品がどれくらい影響していたのかしら。自動車と電車という違いはあれど、どちらも事故とその長い瞬間を扱っていた。この作品は4年前に書かれたものだから、初演からテクニックを高めて高めて、飴屋さん作品で進化して、そんでこれで結実したのかな。初演をみていないけど、「あ、ストレンジャー」と「塩ふる世界。」の違いを考えると、あの体を酷使する演出が初演からそうだったのかは気になるところ。


マームはいつもの生活のディテールが毎回とてもいいです。あたまのなかに景色がありありと浮かぶ。

  • 「いつもと変わらない朝」の描写、「顔を洗ってラジオを聴いて歯磨きしてでかける」。テレビじゃなくて、ラジオ。
  • 歯医者の自動的に水が出てくるよくあるアレについた、つめもの的なピンクのアレ。
  • 駅での他人の会話のわずらわしさと、イヤホンでそれをふさぐカンジ。
  • 子供として、ご飯が食べたいばっかり言ってることをとがめられて、そこまで言うなって地団太踏みながら力いっぱい泣いてたあのカンジ。やってないなぁ、おもいっきり泣くとか。自分の不満をああいう風にただ「悲しい」と表現することとか。

そのディテールにいつのまにか導かれて、まんまと切なくなってしまうのよ。


もちろん、その切なさは、演者さんたちの、目の前で酷使される体とそれによって乱れる声にもよる。
ほんとに演者さんたちには、毎度毎度お疲れさまです、というきもち。萩原さんがかわいくてかわいくてつい目で追ってしまう。飴屋さんとの公演のとき、荷物を預かってくれたりしたとき、おばちゃんはめっちゃくちゃに喜んでいたのですよ。それから吉田さんのしなやかさと、あの消え入りそうな「はーぅ」の声、ね。男性陣は声がたいへんそう。


大学の課題を出すために来ていたっぽい、開演前にきゃぴきゃぴとAKBの話などしていた女子3人組が、終演後、一言も発することなく席を立っていた。