sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

マームと誰かさん・ふたりめ 飴屋法水さん(演出家)とジプシー @ SNAC

出演:青柳いづみ 坂口真由美 村田麗薫 飴屋法水 カントゥス

2分で売り切れたらしいチケット。
どうしてもとりたかったから11時の時報と同時にアクセスして、初日を確保し、もう1枚とろうと11時3分にアクセスしたら売り切れだった。驚いた。


開場時間の30分前にSNACの前を通過してまた驚いた。
「SNACがガケ書房に!」
いつもあるはずの扉が取り払われて、そこにスクラップになった車が突っ込んでた。スタッフがあわただしく行き来していて、入り口につるされたシャンデリアがゆらゆらゆれてた。


開場5分後くらいに入場。車の真正面の一番前の席について、開演までの1時間、本を読んだりまわりをながめたり。ときおり、まず飴屋さんが床にチョークで林檎の絵を書きにくる。今日もくるみちゃんは自由奔放に動き回っていて、お父さんの書いた林檎の横にさらに林檎を書き足したり、スクラップになった車に何度も何度ものぼったり、外に停められている車の上にのぼりながら「きらきら星」を歌ったり。青柳いづみさんも床にチョークで林檎や蟻さんの絵を書く。突如、バリミシっと大きな音が響くと、はずれて床に転がってる車のフロントガラスの上に飴屋さんが横たわって、さらに割りにかかってる。あんな音するんだな。


とてもまとめることができないので、起こったことと、そのとき思ったことをとりとめもないまま書き留めておきます。


3秒間を描く1時間の作品。

1秒目、彼は宙を舞いました
2秒目、彼は地面に落下しました
3秒目、彼は死にました
わたしはそれを見ていました
歩道橋から

ゆっくりと歩みを繰り返しながら繰り返される同じフレーズ。青柳さんが発する言葉やその繰り返しに「ああ、マームだ」と思って、ふと外を見ると、ときどき飴屋さんが自転車で疾走しているのが見える*1。それで「ああ、飴屋さんだ」て思う。ああ、この「3秒間」をモチーフにお二人の世界が並走してる、っておもった。それは決して不協和音ではなくって、そして常に平行線で交わらないわけでもなくって、一部コラボ作品も含まれる「二人展」みたいに感じた。


入り口が開け放たれているわけだから、外には劇場外の世界が広がってる。こちらに目もくれずに通り過ぎていく人、ちょっとだけ視線をよこすも意外と多くの人がこっちを見ていることに気づいてあわてて目をそらして通り過ぎる人、しばらく立ち止まってみていく人、外に腰をすえてみている人、立ち止まってしばらく見てから、腰をすえてみている人に話しかける人。「これなんですか?」とか聞いてるんだろうなぁ、あのおじいちゃん、とか自分の意識も作品も着かず離れずになっていたりして。

「その事故が起こったとき、向かい側には子供たちの列があった。それをみて“ああ、あっちじゃなくてよかった”って思っちゃったんですよね」「なんでだろう」「子供たちには未来があるから」「普通に生きたら私には知りえない何十年かをあの子たちは見るわけだから」

1秒目、彼は宙を舞いました
2秒目、彼は地面に落下しました
3秒目、彼は死にました

1,2,3 このリズムで
1,2,3 このスピードで

車のフロントガラスがあったはずの位置にたった青柳さんが天井に手をかけながら「1,2,3」以降をリフレインする中、外を疾走していた飴屋さんが、前にチャイルドシートをつけた自転車ごと会場の中に入ってきて、車の真正面に自転車をとめた。茶色い紙袋の中に何か紙を入れて、後ろのかごに入れる。そして全速力で自転車をこいだ。そして次の瞬間、わたしの足元に飴屋さんが転がってきた。ひろがる林檎の香り。
飴屋さんはノーガードで倒れていた。自分の身を守ろうとするそぶりがまったくない。普通、わかっていても手が動いちゃうもんじゃないのか。こんなに無防備に自転車ごと。それを何度も何度もくりかえす。
ほんとうに、あとちょっとでもずれたら足にあたってしまう距離に何度も倒れてくる飴屋さんを直視するのが苦しくなって、ふと顔を上に向けると、「1,2,3」と音楽のように言葉を唱える青柳さん。目には涙がいっぱいたまっていて、でも言葉はいっさい震えていなかった。そんな、ふつうなら現れちゃうであろう言動*2が起こっていない二人は、さっきカントゥスがうたってくれた賛美歌のような歌のせいもあってか、どこか神聖なものにみえた。いまはない、神聖なもの。

それと同時に、キヨたんの「今日と明日と明後日のことだけを考えていればいいんだよ」という言葉を思い出してた。遠い未来のこと、自分がとても見られないであろう、子供たちだけが知るであろう、遠い未来のことを話しているときに、「今日と明日と明後日」というとても近い未来のことを思っていた。1,2,3のリズムで。




宙を舞っている間、「空を見ていたのです」と死んだ人(飴屋さん)は言う。当日パンフレットで藤田さんは「“空”を“そら”のつもりで見せたら、飴屋さんはそれを“から”と読んだ」という話をしてた。最後に「空を見ましょう」と観客を誘って、飴屋さんは外に出て行った。


観ながら思い出してたものたち。

ロストハウス (白泉社文庫)

ロストハウス (白泉社文庫)

「ああ、彼はついに全世界を部屋にしてそしてそのドアを開け放ったのだ」


こちらは単純に映像から。作品世界はぜんぜんちがう。


※枠内に書いている内容は、作品内のそのままの言葉ではありません。作品で語られたことをわたしが思い出して書いた、それだけのものです。

*1:気づいていなかったけれど、後ほど登場する女性二人もずっと結構な速度で歩いていたらしい

*2:手が出るとか声が震えるとか