sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

サッちゃんの明日 / 大人計画 @ シアタートラム

ko-moto2009-09-26

作・演出:松尾スズキ
出演:鈴木蘭々 宮藤官九郎 猫背椿 皆川猿時 星野源 家納ジュンコ 小松和重 松尾スズキ

これって「大人計画本公演」な、の?本多劇場じゃないのと、オフィシャルサイトに「松尾スズキ新作」としか書かれていないので「あれ?」と思ってしまいました。

ともあれ、ものっすごく良かった!こういっちゃなんですが、ここのところの松尾ちゃん作品は、観終わった後に、作品そのものなのか「松尾ちゃんの作品」として観るからこそなのか、よく分からないもやもやを抱えて「んんー?」てなることが多かったのです。この作品は「やったー!*1」と諸手を挙げて劇場を出ました。

公演が始まったばかりで、ネタバレしまくるのでたたみます。


キタナイものがキレイにかみ合ってた。

松尾ちゃんが体の端々にひっついてた余計なものをえいえいえいってとっぱらったんじゃないか、そしたらこういう作品になったんじゃないか、って思いました。私が観たことのない昔の大人計画にもしかしてちょっと近いのかな、とか勝手に思ってました。
演劇のチケットをサッちゃんに渡そうとする沼田(小松さん)が「この人はすごいんだよ、障害者とかでもそうじゃない人と同じように扱っておんなじ舞台にたたせるんだよ」と魅力を語って、サッちゃんがそれを「そんな舞台なんか行かない!」てきっぱり断っちゃうシーン*2。自虐、という言葉は合わないな。小松さんが話している内容が、特に私が観始める前の大人計画を評する文章でしょっちゅう目にしたもので、しかもそれが繰り出されたのがよりによってこのシーンか、ってシーンだったのでうわあってなった。


選挙やら覚せい剤やら、ものっすごく最近の話がこれでもかと盛り込まれていました。冷静に考えると2ヶ月くらいの時間はあったのか?とは思いますが、その2ヶ月の中でホンを書き上げて、俳優さんがそれを覚えて、演出して、うんぬん、という作業が行われたうえでこの作品。演劇を作ってみようとしたことすらない私からすると驚愕のスケジュール*3


インパクトのある方向に行っちゃわないように気をつけないと。手遅れ感は否めないけど。


ラストにすがすがしいものを感じてしまいました。劇中に出てきた色んな汚いあれこれが一つ残さず絡まって登場した気持よさと、それらをぜんぶひっくるめて肯定してくれるような包容力というか大きさというか、そんなものを感じました。「世界征服やめた 今日のご飯考えるので精一杯」と心の中の相対性理論が奏で始めるのがちょっぴり残念だ自分。お金も恋人も家族もない、あるいは手に入れた感がない。死ぬことすらままならないし、エロサイト大好きだし、自分自身もほんっとしょうがない。だけど世界は終わらなくって目の前のご飯はおいしい。それでいい。それがいい。そんなものだ?どれもしっくりこないけどおっきな肯定をもらったような気がして劇場をでました。観ることができてよかった。



出演者についてちょろっと。
おじいちゃん宮藤さんがもっと観たかった!おじいちゃんっぽいなーと思うことがよくある宮藤さんがマジおじいちゃんになって出てきたからさぁ、めたくた見つめちゃったもの。あとあの髪型は本物ですよね。魂のときに伸びていたのはこれのためか、と納得。


あと、蘭々*4が不自然なほどに所謂「明るくかわいい女の子」なのは、あれは演出なんですよね*5。ラストに近づくにつれ出てくる「ダーク(?)サッちゃん」になってもベースに「明るくかわいいサッちゃん」が残っていたから演出だったんだろな、と思いました。ええ、前半ちょっといらっとしていたのです。でも今思えば、ダークになったあとにあの明るさやかわいさが全部消えちゃってたりしたら逆に信頼されていない感を抱いて興ざめだったかもなぁと思ったりもする。ひねくれものでごめんなさい。

*1:何が「やったー!」なんだ

*2:メモしてないので実際のセリフではないです

*3:9/28追記:偶然一致しただけで、例の事件よりも前に書かれていたそうで。やあやあ、そうですよね。そしてそういう偶然の一致ってあるんだなぁ。以前、チェルとポツの同日に観た公演で扱っている要素が同じだったように。

*4:なんか彼女は呼び捨てにしたくなるんだぞェ

*5:9/28追記:これもパンフレットに「朝ドラ」という言葉が出ていたそう。確実に演出ですね。確かに最初に感じたイラつきって朝ドラヒロインに感じるそれと似てました。