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「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

ザ・ダイバー 日本バージョン / 野田秀樹 東京芸術劇場 芸術監督就任記念プログラム @ 東京芸術劇場 小ホール1

ko-moto2009-08-22

作・演出:野田秀樹
出演:大竹しのぶ 渡辺いっけい 北村有起哉 野田秀樹

すっっっばらしかった。すごかった。観終わって会場を出てからIWGPでしばし放心状態。曇りだというのに湿気だらけで蒸し暑い昼下がりの池袋。その中で舞台上の青を反芻していたら、より作品が心に重く迫ってきました。わたしは抗いようもなく女だ。

この作品は昨年10月、ロンドンバージョンとして、英国の俳優さん+野田さんにより、シアタートラムで上演された作品。ロンドンバージョンには「現代能楽集IV」の冠がついていました。ロンドンバージョンは既にWOWOWでも放送済み。私はロンドンバージョンは観ていなくて、録画したものもあえて観ませんでした。

作品のベースになっているのは、能「海人(あま)」「葵上(あおいのうえ)」、「源氏物語」、「日野OL不倫放火殺人事件」*1だそうです。事前にこれらの情報を入れていく方がいいかどうかは、うーん、分からん。全部知っているのと、全く知らないのとで楽しみ方が大きく変わる作品であるってことだけは分かります。私は一部だけ知った状態で観にいき、やたらと感銘を受けました。普段、なるべく1作品は1度だけ観るようにしている私ですが、本気でもう一度観たいと思ってチケットを探してしまったほど*2

(追記)「日野OL不倫放火殺人事件」については知らないで観た方がいいかもしれません。WOWOWの「THE DIVER」放送後のインタビューでの野田さんのお話を聞いたところ。


公演はまだまだ始まったばかり、当日券も枚数の差はあれど、毎日出るようです。小さ目の劇場でこの布陣。私はかなり端の席でしたがそんなの全然問題なかったから、ちょっとでも興味を惹かれた方はぜひ観て欲しいと思います。

以下、大したネタバレや情報は入っておりませんが、念のためたたんでおきます。


唯一情報として入れてしまったのが「日野OL不倫放火殺人事件をベースとした作品である」ということ。その事件知らない、と思いあらましを読みました。1993年の事件なので、年齢的に知っていてもいい頃なんですが全く覚えていませんでした。そして、結末こそ違えど、その経緯が最近読んだ角田光代さんの「八日目の蝉」と同じだったので驚きました。「八日目の蝉」もこの事件をベースにした作品だったのですね。退かれることを承知で言えば、私はこの主人公に「私がともすればやってしまっていたかもしれないことをこの作品が見せてくれている」と感じていたので*3、ザ・ダイバーは気持ちを強く持っていかなければいけないだろう、と覚悟を決めて観にいきました。

結果としてこの事件のことを知った上で臨んだことがよかったのかどうかは分かりません。まだ作品中で明らかにされていない部分について、その後の展開を期待しながら観てしまった部分はありました。知らないで観た方がどう感じるのかには興味があります。
それに対して、これもまたベースになっているらしき能「海人(あま)」「葵上(あおいのうえ)」「源氏物語」は、作品紹介程度の知識しか持っていません。これらについて詳しく知っていれば、もっと感銘を受けただろうと思います。だって、知らなくてもそのブレンドぶりに舌を巻く気持ちでしたから。おそらくこのシーンはこの作品から来てるのだろう、と予測くらいはできました。

構成と演出が素晴らしかった。現代と昔なのか現実と妄想(?)なのか、素直に対比できない世界が入り混じっているので、ともすれば混乱してしまいそうなものなのに、戸惑いは一切感じませんでした。開演前にお囃子の方が現れたとき*4に「うわっ」と嬉しく思ったのですが、それらしい、生の音とシーンの合致っぷり、扇子の姿の変え様、白・赤の布のシンプルなだけに雄弁な使われ方の面白さを堪能しました。そしてタイトルを思い出させるまさに「ダイバー」なあのシーン。ライトと音と体の動きであのイメージ。脳みそがマッサージされてる!て心地よさでした。深く深くもぐる。もぐらざるを得ないあのシチュエーション。水中をイメージしていることもあるけれど、どうにも重たい気持ちでのあのシーンには息苦しさを感じました。青があまりにも美しいからこそ余計に。

海のシーン含めて、大竹さんと野田さんの体、すごいなーとただただ感心。特にラスト近く、あの不安定な場所での微妙な痙攣ののち、筋力いりそうな姿勢で微動だにしなかった大竹さん。そしてその直後のシーンで、その無理な体勢から一本足で体を水平にさせた大竹さん。すっげぇ!って作品の内容と少しはなれてその体にも感動しました。

大竹さんはとにかく圧巻でした。やっぱりこの人すごいや。いちゃいちゃしてるときのかわいらしい女っぷりから、男役になったときの口の悪さ、そして犯人として何気にちょっとずつ太くはすっぱになっていってる話し方といい、圧倒されまくり。「にくいにくいにくいにくい」の叫びが心につきささりました。


八日目の蝉

八日目の蝉

能「海人」あらすじ:http://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_024.html
能「葵上」あらすじ:http://www.the-noh.com/jp/plays/data/program_006.html

*1:http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/hino-ol.htm

*2:なかったですけどね

*3:だからこそ怖いので早く読み終わってしまいたくてすごい勢いで一気読みした

*4:そして間髪いれずに野田さんが舞台上に現れました