sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

ロストハウス

敬老の日だったのですね、昨日。親と祖母のいる家にTELしたのに「ねーねー、こないだベーコン使い切った?」とかいうひどい内容を買い物途中に告げただけだった。あいやー。祖母もそうだけど親も立派に敬老対象(って)ですってのに。

おばあちゃん、というと思い出すのがこちらの本。

ロストハウス (白泉社文庫)

ロストハウス (白泉社文庫)

この中の「八月に生まれる子供」という話で出てくるおばあちゃんは、「おばあちゃん」という立ち位置が示されるだけで、孫の立場から語られる対象としてだけ登場します。その孫からみたおばあちゃんが、私のおばあちゃん(多分、色んな人のおばあちゃんにあてはまるのでは)みたいで、そしてちょっと泣きたいような場面で登場するものですから非常に印象深いです。主人公ではない登場人物の口からさらに「語られている」という扱いとしては小さなおばあちゃんなんですけどね。
この「八月に生まれる子供」、短編とは思えないテーマで素晴らしく鮮やかな展開で深遠な世界をみせてくれるすごい作品。ものすごい力強さです。一言で言ってしまえば「急激に老化していってしまう少女の話」。孤独と寂しさと気付きと再生。おいていく悲しさとおいてかれる悲しさ。傑作です。

表題作「ロストハウス」も素晴らしいです。学生時代に済ませておきたかったモラトリアムなカンジとか、焦燥感とか、諦めとか。そういったものが実に淡々と平穏な見かけで語られているのに、最後に圧倒的な包容力でもって包んでもらえているような、逆に放り出されてしまったような展開で幕を閉じます。世界を自分の部屋に。
初めて読んだのが大学時代で、年代的にビンゴだったというのもあると思いますが、この2編はいつ読んでもじんわりと涙腺が刺激されてしまうのです。ああ、今思い出して急にこのエントリを書いてしまっているのですが、読みたくなってきた。読んでから書けばよかったかも。