sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

読了

コイノカオリ

コイノカオリ

女性作家6名による恋愛を絡めた6編。
最近こういうタイプの本を読みすぎたのもあって、正直「少し飽きてしまったか」と思ったり。印象に残ったのは以下の2編でした。

  • 海の中には夜 / 生田沙代

若々しくてすこし背伸びをしたカンジの文体。と思ったらやっぱりお若い方でした。

居場所がなくても、居心地が悪くても、私は高橋さんと一緒にいたかったし、本当に高橋さんのことを、ちゃんと好きだったと言いたかった。でも、やっぱり口に出すことはできなかった。いつもどうでもいいことばかり話しているのに、肝心なことは何一つ相手に伝えられない。私の口はまるで意味がない。


ここなんて。ストレートに甘酸っぱすぎるったらありゃしない。多分そのうち書けなくなるタイプの文章なんじゃないでしょうか。だからこそまぶしいというか。久しぶりにこういう文章に触れたように思います。最近お若い方の文章読んでなかったから……(えーん)。

  • 日をつなぐ / 宮下奈都

対照的にこちらは経験をつんでしまった女性、といった文。ぐっときてしまったのが、産まれたての子供の世話で体力がなくなって身の危険を感じたときに体の底から欲し、力をもらってからかかさず作り続けてきた豆のスープを、正に子供を抱えた状態で、コンロから流しへ持っていってひっくり返すシーン。どうしようもないように見える状況の中でのスープの香りの描写が際立っていました。
作り立ての料理を自ら捨てる行為ってどうしようもなく悲しくなります。大抵はなんかしらの失意とともに行われる、よっぽどのことがないとしない行為ですし。料理って、誰かのために作るとほんのちょっとだけよそ行きのぎこちない味になっていて、それをそのままひっくり返すとその状況の特異さと、ちょっとだけいつもと違うぎこちなさのまじった、でも確実に知っている香りが自分に向かって襲ってくるんですよね。それがいい香りであればあるほど、「それを作っていた時の状況」と「現状」の差が明確になってしまって、ねー。あぁ辛い。