sugar-free

「おあずけとなった今年の夏のいい日を、きっと俺達はとり返そうぜ」

キル / NODA・MAP @ シアターコクーン

作・演出:野田秀樹
出演:妻夫木聡 広末涼子 勝村政信 高田聖子 山田まりや 村岡希美 市川しんぺー 中山祐一郎 小林勝也 高橋 惠子 野田秀樹

ko-moto2008-01-06

94年初演、97年再演に続く再々演。私は初見です。あえて持っている再演映像も観ずに赴きました。

以下、ネタバレはしてますのでこれからの方は読まないでくださいませ。






や、もう、とにかくよかったです。さすが再々演。ラストシーンの鮮やかな色彩と、主人公の状態、そして個人的な昔の記憶によって涙腺が刺激されまくりました。ああ、あの人もこうであったならいい、という思いと、カーテンコールでやや涙ぐみながらおじぎする広末さんの美しさにすっかりやられてぼーとした頭でコクーンを出るに至りました。この感覚はつくづくいい。「オイル」のときもこんなカンジでした。
舞台美術は、簡素な素材を様々に変化させることによって各シーンを鮮やかに舞台上に現していて、そして言葉遊びがふんだんで、「ああこれぞNODA・MAP」と堪能させていただきました。途中、少年王者舘の「IKILL」を思い出したりも。あの作品も「生きる」と「キル」とで散々言葉遊びをしていましたし、「生きてたって、生きたって、何にもいいことないですよ」という諦念の言葉をループするシーンでのトランス感覚と、この「キル」の中で「着る」「斬る」「生きる」と繰り返される鮮やかとも言える勢いとを混在させながら聞いていたもので、私の頭の中はすっかりチルアウトでございました。呑めないけど「おー、酒もってこーい!」てなくらくら感。

野田さんの体がすごかったなー。50代であの柔軟さとあの跳躍力。
勝村さんの役は難しくってお得な役回りだから*1さぞやりがいあるだろうなーとおもいながら、初演・再演を観たい気持ちを喚起させられました。というと主役の方もそうなんでした。初舞台がNODA・MAPで、ファンの期待値も高い作品のしかも再々演って、どれだけ高いハードルですか!と思い、それにしてはものすごく頑張ってらっしゃいましたが、やっぱ声の迫力には欠けてしまってたなーと。特にラスト近くの見得を切るシーンでちょっぴりズコーとなりました。周りが芸達者だから、ってのもありますが。ワイドショーで初日の模様が流れたときに「声……もちますか?」と思っていたらやっぱりかれかけてました。
ただ、会場全体も恐らく現場も、彼を主役として支えて良い作品を作ろう/作品を楽しもう、という空気が感じられて、ああ、この人もものすごい愛され人なんだなーと思いました。頑張れー。今後も舞台がんばればいいじゃない!と思いましたよ。
あとは広末さんの美しさにほれぼれしてました。緒川たまきさんのときとおんなじだ。*2もうあなたは何をしてもいいです、すてきです、キレイは才能です、つまり天才といってもいいのです!と唱えながらガン観。こんなひと同じクラスにいても近寄れない!「やりたい」とかとんでもない!とか思ったり*3。ものすごく甲高い声を出されていましたが、宮沢さんのときもそうでした。野田さん作品に出てくる作品のこういった女性*4のこの発声は、やや辛い状況が描かれる作品の隙間にファンタジーをすべりこませているように感じるので好きです。救われます。

*1:実質主役じゃないのかしら

*2:実は声が聞き取りにくかったけど

*3:この作品の中でそういうシーンがあるのですよ

*4:「贋作 罪と罰」のお松なんかは強い女の表現もあって低いトーンのシーンも多かったので